連携機関インタビュー ココイロクリニック

連携機関インタビュー ココイロクリニック

ココイロクリニック インタビュー

日時:2025年10月10日

インタビュイー:佐藤俊介 院長

インタビュアー:大東真弓(管理者)・星昌子(顧問)・八杉遼太(取締役)

佐藤俊介 院長

タウンサークルを利用いただきありがとうございます。まずは利用いただいて率直なご意見を教えてください。

タウンサークルのスタッフの方々は、利用者の生活に深く関わり、その状況を的確に報告してくださるので、診療に大きく還元できています。

訪問看護は医師よりも密に長時間関わるため、私ではイメージしきれない生活の具体的な状況が分かり、非常に役立っています。医師には話せないことも看護師には自然に話せている場面が多く、その情報を共有することで治療の幅が広がっています。長年の信頼関係により、阿吽の呼吸で連携できていることに大変感謝しています。また、どんなに難しいケースでも断らない姿勢は、地域で支える上で不可欠な存在だと感じています。

―タウンサークルとして、何か気になった点や「こうしてくれればいいのに」といったご要望はありますか?

正直に申し上げて大きな不満はありませんが、事務的な点として、自立支援医療の手続きが完了した際に一言ご連絡をいただけると助かります。

それとは別に、最近、制度運用の面で気になっている点があります。これはタウンサークルさんに限られた話では全くないのですが、患者さんご本人の希望よりも、医師を含めた支援者側の意図や判断で、利用するサービスや支援の方向性が決まってしまうケースが増えているように感じています。背景には制度の構造や現場の運用の影響があり、どこかで事業所間の競争的な力学が働いてしまっているのではないかと考えています。

本来であれば、ご本人の選択や納得感を尊重しながら、支援が継続していくことが最も大切です。しかし制度上の仕組みや現場の実務の中で、支援の理念よりも他の要因が優先されてしまうと、地域での支援体制の土台そのものが揺らぎかねません。職業倫理の観点からも強い懸念を抱いており、制度面での改善や運用の見直しが進むことを期待しています。 

―タウンサークルとしても、支援の基盤となる関係性づくりを大切にしてきたので、ご本人の意向ではなく支援者側の意図だけでサービス選択が動いてしまう状況には、同じく危機感を持っています。―

先生が訪問診療をされるようになったきっかけ、また開業されるに至った思いについてお聞かせいただけますか?

30歳頃までは病院勤務をしていましたが、その途中で人事異動により岡山県精神保健福祉センターへ移り、そこで訪問診療に深く関わる機会を得ました。以前の勤務先でも数名の患者さんに個人的に訪問診療を行った経験があり、地域で生活する方々に寄り添うこのスタイルに魅力を感じていました。訪問診療をより本格的に学び、実践したいという気持ちが強まり、独立を決意しました。

現在は、曜日を固定して訪問診療を行いながら、別の曜日に外来診療を行うという形で地域の方々を支えています。開業にあたり大切にしたかったのは、当院の理念である「心温まる人生をともに」という思いです。患者さんの生活に寄り添い、日々の不安や困りごとに一緒に向き合いながら、安心して暮らしていただける地域医療を築きたいと考えています。

―訪問診療の範囲はどのくらいなのでしょうか。

活動範囲は広く、東は瀬戸内市、西は井原市、北は建部町あたりまで及びます。現在の訪問患者さんは実人数でおよそ100名ほどです。診察内容や移動距離によっては休憩がほとんど取れない日もありますが、可能な限り依頼を断らず地域のニーズに応えたいという思いで訪問を続けています。

特に夏場は厳しい環境になることも多く、車には常に保冷剤を積んで対策をしながら活動しています。

―訪問診療を行うことで、どのような効果があると感じていますか?

訪問診療を導入することで、医療の中断がほぼなくなり、入院率が明らかに低くなっていると実感しています。特に、生活の破綻からくるような突発的な入院はほとんど見られません。治療計画の一環としてタイミングを合わせた入院はありますが、医療が中断して状態が悪化し、入院に至るというケースはほぼなくなりました。これが一番大きな効果だと考えています。

―多くの患者さんを診られる中で、課題や難しさがありますか?

そうですね。やはり、訪問診療を行ってくれる精神科の医師がもっと増えてくれたらいいな、とは思います。自分と同じように地域で活動する先生がもっと増えてほしいと切に願っています。地域を支える側として、一緒に困ってくれる先生がいるかいないかでは全く違います。自分一人ではカバーしきれない領域があり、患者さんの特性や性別によって、相性の良い医師は異なります。女性医師による訪問診療の選択肢も増えるべきですが、現状では訪問診療をしている医師は数えるほどしかいないが実情です。

―訪問診療の日は、どのような体制で臨まれているのでしょうか?また、多忙な業務をどのように管理されていますか?

訪問には基本的に一人で向かい、クリニックに残っている職員とは電話で常に連携を取っています。日々の業務を効率化するため、車内の備品の配置を見直すなど、小さな改善を常に積み重ねています。

―看取りを視野に入れたケースには、どのように対応されていますか?

岡山県精神保健福祉センターに勤務していた頃から看取りの経験があり、そうしたケースに対応することに躊躇はありません。もちろん、24時間対応ではないことや、身体的な管理には限界があることを、ご本人とご家族に最初にきちんと説明し、納得していただいた上で関わります。ご本人が最後まで自宅で過ごしたいという意思を尊重することが最も重要だと考えており、救急車を呼ばない選択も含めて、ご家族と連携しながらギリギリまで支えていきます。

―患者さんのご家族や他の支援者との連携で、困難を感じることはありますか?

ご本人の意思と、ご家族やケアマネージャーなど周囲の支援者の意向が食い違うことは少なくありません。ご本人が望んでいなくても、周囲の不安が強いために救急車を呼んでしまい、結局本人が乗車を拒否するといった混乱が生じることもあります。しかし、在宅医療ではご本人の意思が最も尊重されるべきなので、そうした意向の違いは仕方がないと捉えています。最終的には、ご本人の意思を尊重し続けることが大切だと考えています。

―佐藤先生のように地域で活動する精神科医のネットワークは存在するのでしょうか?

ネットワーク自体は存在しているのですが、皆さん非常に多忙で、集まる時間を確保することが難しいのが現状です。病院医療の領域ではしっかりとした体制が整っている一方、地域医療の分野では、関係機関と横のつながりを強めていく取り組みがまだ十分ではないと感じています。

私自身も、地域の支援者同士がより気軽に相談し合い、課題を共有できるようなネットワークを整えていくために、時間を確保して動いていくことが今後の大きな課題だと考えています。

―現在のクリニックの予約状況はいかがでしょうか?

訪問診療については可能な限り依頼をお受けする方針ですが、外来診療は以前、予約を途切れなく受け続けていたため、気づけば非常に先まで予約が埋まってしまう状況が続いていました。そこで、できるだけ早く受診していただけるようにとの思いから、現在は予約の開始時期を区切る仕組みに変更しました。

一定の時期になったら、その先の予約枠をまとめて開放する方式にしたことで、以前よりも早いタイミングで受診していただけるようになっています。

―訪問日の効率的な時間の使い方について、工夫されていることを教えてください。

移動時間を削減するため、朝は自宅から直接一件目の訪問先へ向かい、訪問が終わればそのままクリニックへ戻ります。前の日の夜に、翌日使う全ての荷物を車に準備し、朝すぐに出発できるようにしています。特に岡山市内へ向かう際は、渋滞が始まる前に出発する必要があるため、どの道がどの時間に混雑するのかを頭に入れて行動しています。

―地域からの反響も大きいようですが、増え続ける需要にどのように応えていますか?

岡山市以外の地域など、これまで医師の訪問が入っていなかったエリアの方々から「本当に助かった」という声を多くいただき、地域での訪問診療の必要性を強く感じています。ただ、訪問診療は一人で対応できる数に限りがあるため、今後の需要にお応えしていくためには工夫が必要だと考えています。

状態が安定し、通院が可能となった患者さんについては、地域の外来へスムーズに戻っていただけるよう支援しながら、訪問がより必要な方に時間を確保できるようにしています。また、訪問ルートを定期的に精査し、効率的に回れるように調整することで、限られた時間の中でもより多くの患者さんに対応できる体制づくりを進めています。

―以前のセンター勤務と比較して、現在の訪問診療の働き方にはどのような変化がありましたか?

以前勤務していたセンターと大きくかわりないですが現在は、自家用車で訪問に向かうことができるため、訪問の前に予約を入れたり、車両を手配したりといった段取りが不要になり、その分スムーズに動けるようになりました。

働き方の基本的なスタイルそのものは大きく変わっていませんが、自分の判断で柔軟に移動のペースを組み立てられるようになったことで、地域全体を見ながら訪問スケジュールを調整しやすくなったと感じています。

―記事を拝見しますと、子どもの自殺問題に関する講演もされているようですが、自殺予防や心の健康について、地域医療の観点からどのようにお考えですか?

センター勤務時代には、自殺対策推進センターの担当として、自殺対策に関する行政的な業務や啓発、研修といった仕事に関わっていました。ただ、臨床の場面で「自殺に特化した専門外来」を行っていたわけではなく、一般的な精神科医として、日々の診療の中で自殺念慮や希死念慮を抱える方と向き合ってきた、というのが実際のところです。

近年は、中高生を含む若い世代の自殺が増加していることや、その背景のひとつとして発達障害との関連が指摘されていることもあり、学校や家庭、医療・福祉がどう協力していくかが大きな課題だと感じています。

一方で、当院の訪問診療に限って言えば、現在は若い世代の利用はまだ多くはなく、訪問している方の年齢層は若くても40代くらいが中心です。そのため、いわゆる自殺のハイリスクにある若年層のケースは今のところ多くありませんが、地域でのニーズの掘り起こしが進めば、今後はそうした世代への支援も重要になってくると考えています。

―今年は自殺対策基本法が改正されました。小中高の自殺者数の増加が近年深刻になっており、2024年は過去最多を記録しました。札幌医科大学の河西千秋教授の取り組みも注目されています。河西先生のチームは、リストカットを繰り返すようなハイリスクな方々を支える強固なネットワークを実践し、そのケアの診療報酬化も実現されました。岡山の現状から課題は何だとお考えですか?

河西先生のような濃密で手厚いケアを地域全体で展開するためには、現状では圧倒的に人員が不足していると感じます。医師、看護師、精神保健福祉士といった専門職の層を厚くし、まずは地域の中で基盤となるプライマリーケアの裾野を広げることが重要です。そこが整ってはじめて、専門性の高い支援を地域に実装していく段階に進むことができるのだと思います。

また、自殺は医療だけの問題ではなく、教育、福祉、家庭環境、経済状況など社会的な背景が複雑に絡み合っています。医療だけで完結できる課題ではないため、多領域が連携し、地域全体で支えていく仕組みづくりが求められていると感じています。

―岡山市や岡山県内で、情報共有やネットワークをより円滑にするために、どのような仕組みがあれば良いとお考えですか?

ネットワークの構築は本当に難しい課題だと感じています。私は普段から、ケアマネージャーさんや訪問看護師さんなど支援者の方々と、電話などでできるだけ迅速にやり取りができるよう工夫し、直接コミュニケーションを取る機会を意識的に増やしています。昔からよくいわれる「顔の見える関係」が、やはり最も大切で、最も効率的だと思います。制度的な仕組みももちろん重要ですが、最終的には、人と人との信頼関係があることで初めてスムーズな連携が成り立つと実感しています。

―支援者同士がより良い関係を築くためには、何が大切だと思われますか?

所属する施設や職種が違っても「ともに患者さんを支える仲間」という基本的な信頼関係を育むことが理想だと考えています。そのうえで、コミュニケーションの取り方もとても重要です。

メールやLINEといった文章でのやり取りは便利ですが、それだけでは伝わりにくいニュアンスや温度感もあります。電話で直接話すこと、必要に応じて実際に会って言葉を交わすことが、相互理解を深めるうえで欠かせません。患者さんのためにより良い支援を行うという共通の目的を共有しながら、そうした「顔の見えるつながれる仲間」を増やしていくことが、地域全体の支援力の向上につながると感じています。

―最後に、今後の連携について一言お願いします。

 患者さんの自己決定を尊重しながらサービスを選べるよう、組織同士の連携を広めていけたら良いと考えています。何か困難なことがあった時には、ぜひ一緒に悩ませていただき、共に考えさせていただければと思います。今後ともよろしくお願いいたします。

ホームページ:https://cocoiro.jp/