連携機関インタビュー⑤

地方独立行政法人岡山県精神科医療センター インタビュー

日時:2025年1月23日(木)11:00~12:00

インタビュイー:院長 来住由樹

        精神保健福祉士 牧野秀鏡 黒岡真澄 吉川輝

インタビュアー:代表取締役  八杉基史

        管理者 大東真弓

        顧問 星昌子

        取締役 八杉遼太

来住由樹 院長

はじめに(タウンサークル代表:八杉基史)

私は昭和57年に、岡山県精神科医療センターの前身である県立岡山病院に就職しました。以来、長年にわたり病院の中で精神科リハビリテーションに携わってきました。しかし、病院内で行っていた支援と、訪問看護の現場で実践しながら学んだことの間には、大きな隔たりがあると感じています。

病院では、朝の食事から服薬管理、作業療法、レクリエーションに至るまで、すべてが医療の対象とされ、医師の指示のもとで管理・実施されます。一方、地域においては、生活の主体はあくまで利用者さん本人です。日々の生活をどう組み立てていくかは、基本的に利用者さん自身が決めており、私たち訪問看護が介入できる範囲は、ほんの一部に過ぎません。

だからこそ、「利用者さんが本当に望んでいることは何なのか」を、改めて深く考える必要があると感じています。しかし、現時点では、まだ十分にできていないことが多くあります。そして、訪問看護だけでそのすべてに応えることは難しく、他の支援と連携してはじめて可能になると痛感しています。 障害者総合支援法の施行により、地域でさまざまなサービスが提供できるようになったことは大きな前進です。それでも、やはり「連携なくして地域医療は成り立たない」ということを、日々の実践の中で強く実感しているので、今後の課題は病院と地域がどのようにうまく連携していけるかだと思っています。

病院と地域がうまく連携していくには

牧野秀鏡さん

黒岡真澄さん

吉川輝さん

(岡山県精神科医療センター)病院と地域と温かく円滑な連携が少しでも前に進むようにしていきたいです。地域連携室や相談支援事業所の設置などをしてきましたが、当院のスタッフも動き回り、個別に対応をしている中で、うまく連絡がつかないことがあるのだと思います。病院の中では、地域での生活は想像をしても、見て感じることはできません。生活のそばにおられる方との情報共有は、通院や入院を生活の回復につなげるためにとても大切です。もっとうまく、ストレスも少なく、個別の対応をしていても、相互に連絡ができる仕組みがあるといいですね。多くの患者さんがおられ、連携先も多岐にわたる中でも、一人ひとりの事情を踏まえた対応ができるために情報伝達と共有は、いまも課題だと考えています。

(タウンサークル)当事業所との連携についてはどうでしょうか。

(岡山県精神科医療センター)タウンサークルについては、それぞれのスタッフがしっかりと関係性を築いてくださっていると感じています。たとえば患者さんの中には、「来てもらっても話すことがない」「30分も話すことがないから、もう必要ない」といった理由で訪問看護の中止を申し出る方もいらっしゃいます。しかし、タウンサークルについては、そうした理由で訪問を断られたことがありません。おそらく、担当スタッフがしっかりと関わり、的確なアセスメントを行ったうえで介入してくださっているからだと思います。「ここまでしてくれるのか」「こんなことまで連絡してくれるのか」と、私たちが感心する場面も多くあります。病院が把握していない場面においても、タウンサークルはしっかりと判断し、適切に介入してくれています。また、報告内容も簡潔かつ要点が整理されていて、大変助かっています。

(タウンサークル)病院では、医師が状況を見て判断し、それに基づいて各スタッフに指示を出すという仕組みが整っています。一方で、地域では訪問看護スタッフ自身がその場で判断しなければならない場面が多く、これが非常に難しいと感じます。まさに、生活の場で支援を行うことの難しさはそこにあるのだと思います。だからこそ、そのような場面で適切に判断できる力を養っていくことが非常に重要です。それはときに苦しさを伴いますが、同時に訪問看護のやりがいや面白さでもあると感じています。

成長や回復を支援する訪問看護

(岡山県精神科医療センター)タウンサークルではハビリテーションの観点から児童精神領域にも対応してくれています。成長・回復・機能の回復を支援することを軸に掲げている点が、タウンサークルの大きな特徴だと感じています。医療の世界ではどうしても「指示」によって動くことが多くなります。しかし逆に、訪問看護には医療機関を育てる力があるとも信じています。タウンサークルにはぜひそのような存在であってほしいと願っています。

(タウンサークル)病院では毎日患者さんと面談をしたり、他職種の情報もカルテひとつで把握することができる、医療者的には非常に恵まれた環境ですが一方、地域ではこうした体制を整えることが非常に難しいのが現状です。利用者さんのことを深く理解したうえで、どのようにその方と一緒に方向性を定めていくか、そしてそのような関わりができるスタッフをどのように育てていくかは、大きな課題です。

また、日々、ジェネレーションギャップも強く感じています。訪問看護ステーションのスタッフは、訪問看護をやりたくて入職している人が多いため、モチベーションは高いと感じます。しかしながら、経験値には大きな個人差があり、精神科看護の視点をしっかりと身につけるための研修は不可欠だと思います。

(岡山県精神科医療センター)現在、当院の平均在院日数は46日となっています。一人ひとりの方にとっては、1ヶ月をこえる入院なので大変なこととおもいます。一方でその期間で生活全般を整えるには時間が足りないこともあります。精神科の病気になった人が自分の言葉でしっかりと病気を語れることは、それ自体が回復だとも言えますが、簡単なことではありません。クライシスプラン(注)についても、本当はもっと細やかに本人の言葉で語られたものにしなければいけませんが、まずは地域生活につなげるために、急いで作成していることも多いのが現状です。

(タウンサークル)クライシスプランを立てることは非常に大切だと思います。訪問看護の際に、折を見てクライシスプランを取り出し、内容を一緒に振り返りながら、現在の状態について本人と確認し、成長を共に喜ぶことが必要です。また、その時々の状況に合わせて見直していくことも大切です。

利用者さん主体の訪問看護

(タウンサークル)病院主導の医学モデル中心のプランは、なかなかご本人に満足してもらえません。やはり、利用者に満足していただかないといけないと思います。訪問看護計画こそ、利用者がわくわくするようなプランを立てていきたいと考えています。この考え方をこれから浸透させていきたいと思います。利用者主体のプラン作りをして、生活を楽しんでいただきたいです。「当事者と訪問看護スタッフとが共同で営む作業」として、訪問看護計画書を作成することが大切です。

(岡山県精神科医療センター)当事者が目標を達成できるような計画を、一緒にワクワクしながら作成していくためにも、病院と訪問看護がそれぞれのアセスメントをしっかり共有できるといいですね。

(タウンサークル)入院中の患者さんに面会させていただくことで、病院スタッフとアセスメントを共有し、退院早期から適切な支援を準備できます。退院後も、患者さん本人が生きてきた街で生活を続けられるように地域のさまざまな事業所や支援者とつながりながら、障害のある方が生き生きと暮らせる街をつくっていきたいという思いを込めて、「タウンサークル」と名付けました。人材育成については、最も難しさを感じているところです。病院と地域の両方を経験し、視野を広げながら成長してもらえるような研修を実施したいと考えています。ぜひ、その実現のためにご協力をお願いしたいと思います。

(岡山県精神科医療センター)私たちの病院も「地域に育ててもらう病院」になれたらと願っています。地域の中で共に育ち、支え合う関係を築いていくような病院を目指していきたいです。患者さんもまた、地域に支えられながら生きていく存在となり、私たちはその“接合面”において求められる医療を提供していけばよいのではなないかと考えています。そのためにも、今後さらに「断らない医療」の実現を追求していきたいと思います。

(タウンサークル)当事業所としても「断らない訪問看護」を今後も継続していきたいと考えています。そして、お互いに求められていることにしっかりと応えられる存在になれるよう、共に目指していきましょう。

岡山県精神科医療センター → https://www.okayama-pmc.jp/

注〈クライシスプラン〉クライシスプランとは、精神疾患を抱える当事者や支援者が、精神症状の変化にいち早く気づき、予防的に対応するための計画書です。また、病状が悪化した場合にも、あらかじめ定めた計画に従って、患者と支援者が協力しながら対処することを目的としています。